ビジネスエッセイ:ビットコインは差押えできるか?暗号資産の強制執行について法的手続の観点から調べてみた
2021年12月26日「知人がビットコインで大儲け(⇔大損)した」
「某国はビットコインを法定通貨に採用した」
「ベンチャーキャピタルが『暗号資産ファンド』の規模を拡大」・・・・。
ビットコインに代表される仮想通貨/暗号資産(本稿では後者で統一します)についてはいろいろとオサワガセなニュースや噂が飛び交っています。
果たして通貨か?財産か?
本稿では、暗号資産を金融資産の一種と捉えた場合、法的にどう取り扱われるか?
もっと生々しく言えば、暗号資産は借金のカタに取り立てできるか?
について法的な手続き面から検証してみました。
なお、執筆にあたっては
雑誌「金融法務事情」2021年6月25日号
ウェブサイト「裁判所 COURTS IN JAPAN」
を参考にさせていただきました。
(本稿はビジネスエッセイとして一般の読者の方々向けに書かれてたものであり、記述内容に関し専門家による厳密な検証に耐えうる正確性を必ずしも具備していない可能性がありますので、その点はご了承ください)
ちょっと長めの前置き
貸したおカネや売掛金(債権)をいつまでも払ってくれない相手(債務者)に対して「いい加減にしろよ!」ということでどうやって回収するか(債権回収)を考えた時に、相手の財産を何らかの形で処分(売ってもらって)してその代金で回収する、ということがあり得ます。
ただ、他人の財産を勝手に処分することはできませんから、裁判所の助けを借りることになります。
債権について担保を取っている場合(銀行がおカネを貸すときに不動産に担保設定しますが、そういう場合)、債権者(おカネを貸した側)は裁判所に申し立てて「担保権」を行使します。裁判所の管理のもとで担保物をオークションにかけて(競売=ケイバイという)売却し、その代金から債権を回収するのです。
一方、担保を取っていなかった場合は「貸したカネを返せ!」という裁判を起こして、「ふむふむその通りだな」(裁判官)ということで「勝訴」すれば「債務者さん。アンタ借りたおカネを返しなさい」という判決を得ることができます。コレを「債務名義」といいます。(このあたり少々大雑把な解説です。プロの方はご容赦ください)
この債務名義に基づいて、裁判所の力で債務者が自分の財産を勝手に処分できないようにするのが「差し押さえ」です。
で、差し押さえた財産を裁判所の管理のもとで処分し、おカネに換える手続きを「強制執行」といいます。
ということで前置きが長くなりました。暗号資産を「財産として強制執行できるか?」というのが本稿の論点です。
暗号資産はどんなもの?
「資金決済法」という法律の上では、暗号資産は国家により強制通用力が与えられている「通貨」とは別のモノとされています。
一方で、発行者が決まっていて発行者が指定する者からモノやサービスを購入できる場合に限定して使える電子マネーやポイントカードとも区別されています。
暗号資産は「有体物」(金の延べ棒みたいにカタチのあるもの)ではなく、特定の中央管理機関が存在しません。ブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者相互で正確性の検証が行われる管理台帳を参加者が共有することで運用されています。
前述のように暗号資産は有体物ではないので、民法上の「物」とは言えず、したがって「所有権」の対象にはならないそうです。なので債務者が「所有している物」を差し押さえて強制執行する、という法的な理屈付けは難しいようです。
また、ビットコインのように発行者が存在しない暗号資産の場合、債務者が「発行者」に対して持ち得る債権(預金者が銀行に対して預金の払い出しを請求できる「債権」のような)が存在しないので、仮にビットコインを差し押さえても発行者のところに行って「おカネに換えてください」と言えないことになります。(というか、発行者そのものがいない)
また、発行者が存在しても電子マネーのような「発行者⇔加盟店⇔ユーザー」といった物やサービスとおカネの流れではないので「債権」を構成するのは難しいようです。(この辺は専門的すぎて筆者もちゃんと説明できません<m(__)m>)
では、暗号資産を差し押さえてもおカネに換えることはできないのか?!
ここで「暗号資産交換業者」が登場します。
資金決済法に定められた総理大臣の登録業者で、一覧表のような業者が存在します。
暗号資産を保有している人は基本的にこの暗号資産交換業者から暗号資産を購入し、その業者に暗号資産を「預託」しています。
つまり暗号資産交換業者とそのユーザーの間には暗号資産の管理/交換を行なう内容の契約関係があることが想定されます。
ということは、利用者が暗号資産交換業者に対し「預けてある暗号資産を返して」と請求できる「暗号資産移転請求権」という「債権」が成立するのだそうです。
なので、暗号資産にまつわる法的手続きとしては、債務者が暗号資産交換業者に預けた暗号資産に関する「暗号資産移転請求権」を差し押さえ、強制執行の対象とするのが主流となりつつあるようです。(2018年から2021年までに暗号資産交換業者に対して暗号資産返還請求権を対象に含む差押命令または仮差押命令が37件出されたそうです)
また、本稿の論点とはズレますが(実務上のオマケの話しとして)債務者が暗号資産交換業者に預けているおカネ(暗号資産を換金したり、取引証拠金として預けたりしている、いわゆる「通貨」)の払い出しを求める請求権は通常の「金銭債権」なので、これも差し押さえて強制執行することが可能のようです。
このように暗号資産は「物」ではなく、発行者への債権を構成するのも難しい、一筋縄ではいかないシロモノではありますが、「暗号資産移転請求権」を差し押さえることで債権回収が可能なようです。
実際に債権回収等の実務を検討されるにあたっては専門家に十分相談されることをお勧めします。当たり前ですが。
(この稿おわり)
こんにちはHill Andonです。日本語で書くと昼行燈と申します。
サイトオーナー兼管理人兼編集長兼メインライターです。
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