ビジネスエッセイ:何はともあれまずは5S ~SDGsやDXにもつながる中小企業の経営改善一丁目一番地~-②
2021年8月13日中小企業にとってキチンとやっておいてまず損することのない、現場の運営改善には必須の取組である「5S」。
前回は基本的な5Sの考え方をおさらいしました。
今回は5Sの各要素について個別に見ていきましょう。
整理
あるものづくり企業では材料在庫の管理がなされておらず、製品をつくるために使う様々な部材が多めに仕入れられたり使い残した結果、倉庫に山積みになっていました。「また使うだろう」ということで残してあるのですが、どこに何が置いてあるかもわからず(コレは整頓ですね)、結局また同じものを仕入れたり。見つかった!と思ったらいつ仕入れたかわからず、品質に不安があったり。
仕入のルール(適当にたくさん仕入れない)、保管のルール(いつ仕入れたかを記録して期限を過ぎた在庫は処分)を決めて(躾ですね)、しっかり整理する必要があります。
「とりあえず残しておこう」と判断された書類や資料が漫然とファイルされ、いやファイルされることもなく、書類棚は膨れ上がり、デスクの上は紙の山。
これらの「情報」は場所を占有し、意思決定を混乱させるもととなります。デジタル情報に置き換えてアップデートとバックアップを取ることでペーパーレス化と迅速で正確な意思決定につなげることができます。これはとりもなおさずDX(デジタルトランスフォーメション)を実施していることになります。
SDGsとの関連で言えば、「整理」をキッカケとして自社で使っている包装材をプラスチック系から紙に置き換えことでプラスチックごみの削減につながります。ご存知のようにプラスチックごみによる海洋汚染は世界的な問題です。プラスチックごみの削減はSDGsの目標14.「海の豊かさを守ろう」につながります。他にもDX推進によるペーパーレスは森林資源の保護につながりますし(15.「陸の豊かさも守ろう」)、化石燃料の使用を抑えることは地球温暖化の抑止につながります。(13.「気候変動に具体的な対策を」)
このような断捨離、置き換えによって置き場所のスペース(家賃)が節約され、仕入れコストが削減できれば、それはとりもなおさず企業にとっての収益改善につながり、そのこと自体がSDGsにつながる(8.「働きがいも経済成長も」)と筆者は考えています。
整頓
ある企業では「モノの置き場所」のルールが定められておらず、設備や備品や工具、材料や製品が「なんとなく・とりあえず・今までの成り行き」で置かれていて、雑然とした雰囲気が漂い、結果として作業動線が悪くなり、効率が上がらず、生産性の向上が阻害されてきました。
全体最適を考えてこれらのレイアウトを決め、設置場所にラベルや表札を掲げる、ラインを引いてそこからはみ出さない、等のルールを決めて守らせる(躾ですね)ことで、作業環境が大幅に改善され、生産性が向上しました。
清掃
設備や工具、治具の手入れを怠らず、工場や事務所の床からごみをなくし、棚や机の上、引き出しの中をきれいにする。一見当たり前のこのことが意外にできていないのは、みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか?企業ベースでも個々人ベースでも。
清掃は結局のところ整理整頓と不可分で、整理整頓なくしては清掃はできず、整理整頓だけやって清掃しないということもあり得ません。実感としてお分かりいただけますよね?
清潔
筆者の感覚としては「整理」「整頓」「清掃」の3Sの維持を「清潔」と定義するのはいささか「Sのこじつけ」っぽい気がしないでもないですが、それはともかく、3Sを維持するのは大変で、「S(清潔)」だろうが「I(維持)」だろうがとにかく維持継続の努力、5Sを持続可能とする仕組み作りこそ5Sの要諦と考えます。
ある企業では経営者の旗振りの下で5S推進の責任者を決め、その方が職場を巡回して是正が必要な3S事象が見つかれば社内のSNSでアラートを発し、対応を促します。次回の巡回までに是正/改善するか、困難な場合は関係者で協議して対応策を講じてもらいます。場合によっては5S責任者や管理職も交えて根本的な「ルール決め」(躾ですね)に踏み込むケースもあります。
その企業は比較的小規模なので5S責任者は一人でしたが、企業規模が大きくなれば必然的に複数の社員が関与する「5Sプロジェクト」が「持続可能な5S活動」の責任を負うことになります。
5Sプロジェクトのメンバーは人事評定の評価項目に「5Sの推進維持」が組み込まれ、その努力が公正に評価され報われる仕組みが用意されています。
躾
ここまでご覧いただくとお気づきかと思いますが、現場の実践としての3S(整理・整頓・清掃)とその維持(清潔)の4Sを機能させるにはそれらをバックアップするルール作り、仕組み作りが必要となります。それが躾です。
統一的、整合的なルールや仕組みがなければ3Sの維持継続は困難です。
そしてそのルールや仕組みは単なる押しつけでは不十分で、実践する社員一人々々の意識付け(納得性やインセンティブ)まで配慮したある種の戦略性を持ったものが必要です。
SDGsやDXを絡めるといった5Sに多義性を持たせること(逆に敢えて持たせないこともアリ)も戦略性に含まれると考えます。
こうした戦略性をもったルール決め、仕組み作りとなると5S責任者やプロジェクトチームだけでは荷が重く、経営層の関与が必要となります。
経営層がバックアップして「躾」にしっかりしたフィロソフィーを注入することです。
5Sの中の躾に関しては経営層が主体的に関わる事項、決して現場や責任者(部門)に丸投げしてはいけない事項と言って良いと思います。
躾をその企業の「文化」にまで高められるかどうか?が5Sの最終的な到達点であり、そこには経営者の「理念」や「志」が不可欠なのです。
このように5Sは現場の細かい実践の積み上げであり、且つ企業の生産性の改善につながり、更には企業理念や企業文化にもつながっていくシンプルにして崇高な(というと大袈裟かな?)活動なのです。
中小企業はこの「できているようでできていない」「大切なことは分かってはいるけど徹底できない」5Sを通して経営体質を足元から、しかも時流に乗って改善することができるのです。
本稿ではSDGsやDXと関連付けてお話ししましたが、それら以外の経営課題も5Sの推進を通して改善できるケースが多々あるはずです。
業績の良い企業もそうでない企業も、まずは見直す自社の5S。
5Sは中小企業の経営改善にとって一丁目一番地なのです。
(この稿おわり)
こんにちはHill Andonです。日本語で書くと昼行燈と申します。
サイトオーナー兼管理人兼編集長兼メインライターです。
中小企業のみなさん向けに、エグゼクティブコーチング・経営改善支援・補助金申請支援などを行なっている、フリーランスの経営コンサルタント。中小企業庁の「認定経営革新等支援機関」でもあります。
よろしくお願いします。