ビジネスエッセイ 五輪開催の向こうに広がる風景
2021年6月27日「2020年東京オリンピック・パラリンピック」(以下「東京五輪」もしくは「五輪」)開幕まで1ヶ月を切りました。
今のところ政府は万全の感染対策をとることを前提に開催する構えのようです。
一方、海外ではサッカーの欧州選手権(10ヶ国で分散開催)やサッカーの南米選手権(於ブラジル)が開催されています。
大会によって有観客/無観客開催の別はありますが、総じて開催地ではコロナ感染者が増加しているようです。
大きなイベントが開催されれば、観客のみならず関係者も含めて人流は増える。人流が増えれば感染者は増える。
この因果関係はもはや誰の目にも明らかです。
なのに為政者は何故、スポーツイベントを開催したがるのでしょう?
スポーツに人生をかけるアスリートや関係者の情熱に応えるため?そんなナイーブなハナシではないでしょう。
「民衆にはパンとサーカス(娯楽)を」(ローマ帝国のご機嫌取り政策)は現代社会でも有効だから?ずいぶん民衆を馬鹿にしたハナシですが、あるいは為政者は(IOCは?)そう考えているのかもしれません。
最近よく出るハナシでは「IOCの意向に反して五輪を中止すると莫大な違約金や損害賠償が発生するから」というのがあります。
あり得るハナシですが、その金額はハッキリしません。
(東京オリンピック「開催都市契約」に記された中止要件とは? IOCに強大な権限、日本側のみが損害賠償か)
いずれにせよ、経済的な損得勘定は五輪開催の是非を考える際のキーファクターであることは間違いなさそうです。
ある雑誌には(週間金融財政事情 2021.6.1)五輪中止の場合の経済的損失は5兆1,559億円と試算されています。
大会運営によって落ちるはずのおカネや、選手や観客の消費、五輪効果による家計の消費、スポンサー企業のマーケティング予算などがその内訳です。
ただ、一方では「開催前経済効果」としてスタジアムなどのインフラ整備や事前の宣伝広告などに投資/消費されたおカネとして2兆円が達成されているとも書かれています。(同誌;「シナリオ別に見た東京五輪の経済損失」)
つまり、差し引き約3兆1,500億円の経済損失ということでしょうか。
(ただし文脈から想像するに、この金額には前述の違約金/損害賠償金は加味されていないようです)
それに対し五輪開催により人流が増加し、4回目の緊急事態宣言が発令されたとしたら、それによる経済損失はどのくらいになるのでしょう。
野村総研によると、過去の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置による経済損失は14兆円4,600億円と見積もられています。
ただし、この記事では第3回の緊急事態宣言は5月31日までと仮定されており、実際には6月20日まで延長されたことを勘案するとさらに1兆円程度の損失が上乗せされているとみてもおかしくありません。
だとすると、3回で約15.5兆円の損失。
1回平均5.2兆円弱。
次の緊急事態宣言でもこの規模の経済損失が出るとすると・・・。
それが、五輪開催による人流増加に起因するものだったとすると・・・?
簡単な計算です。
五輪をやらない経済損失:3.15兆円
五輪をやったことによる経済損失:5.2兆円
あなたはどっちを取りますか?
巷の状況はどうでしょう?
6月25日現在のワクチンの接種率は2回接種済みで総人口の9.7%。
大手コンサルティング会社のPwCの試算によるとワクチン接種完了は2022年4月とのこと。
ワクチン接種の普及によって人流増加⇒感染拡大のインパクトは次第に緩やかになっていくことは考えられますが、この状況では東京五輪(による人流増加)に起因する感染拡大を抑止するほどの力をワクチン接種が持ち得ると考えるのはいささか楽観的でしょう。
人出が増えれば感染者も増える。のトレンドは当面は変わらないでしょう。
そして人々の「リベンジ消費」のマグマは噴出口を求めて圧力を高めています。
緊急事態宣言が解除されただけでも人流は増加することが予想され、さらに「キッカケ」となるイベント(=五輪)が開催されたとしたら・・・・?
「もうこれ以上緊急事態宣言が出たらもたない!」
アパレルや物販、飲食、観光関連業者の方々の言葉は切実です。
緊急事態宣言が発令されていなければダラダラとでも客足は続く。最盛期にはほど遠いにせよ。
ただ緊急事態宣言が発令されてしまうと客足はガクンと落ちる。飲食店ではアルコール類も出せなくなる。
「コロナ融資」で調達した資金も次第に底をつき始めています。
もはや政府系金融機関も保証協会も簡単には新規融資に応じてくれそうにありません。
のみならず、そろそろ「コロナ融資」の据置期間が終わり、毎月の元本返済がスタートする・・・。
アパレル・物販・飲食・観光関連の中小企業の資金繰りは危険水域に近づいています。
これ以上、緊急事態宣言が繰り返されると危ない。
「ダラダラ消費」のもとでどうにかやり繰りしながらワクチン接種の普及による集団免疫の確立を待ち、消費の本格回復を待つ、というシナリオしかありません。
医療従事者の負担も限界に近づいています。
筆者の知人宅では、認知症の妻と障害者の長男を残して85歳の夫がコロナ感染により亡くなりました。
このような事態が日本中(いや世界中)で起こっています。そしてこれからも・・・。
このような状況下でも五輪開催は必要なイベントなのか!?
五輪開催の向こうに広がる風景は、どのようなものなのでしょうか?
(この稿終わり)
こんにちはHill Andonです。日本語で書くと昼行燈と申します。
サイトオーナー兼管理人兼編集長兼メインライターです。
中小企業のみなさん向けに、エグゼクティブコーチング・経営改善支援・補助金申請支援などを行なっている、フリーランスの経営コンサルタント。中小企業庁の「認定経営革新等支援機関」でもあります。
よろしくお願いします。