「特例リスケ」中になにができるか

「特例リスケ」中になにができるか

2021年6月14日 オフ 投稿者: 鈴木健二郎

新型コロナ特例リスケジュール

コロナ禍の影響を受けた企業に対する支援として2020年4月から始まった制度「新型コロナ特例リスケジュール」(以下、特例リスケ)ですが、開始から1年経った2021年4月からの延長が決まりました。
便利な制度なのですが、内容がわかり難く知名度もイマイチ。
開始直後にとある社長に案内をしたのですが「リスケなんてしたら新たな借入できなくなるよ」と話を聞いてくれなかったなんて事もありました。
簡単に言うとこの制度、コロナ禍の影響を受けた企業の借入返済を最長1年猶予(リスケジュール・金利は払う必要アリ)してくれるというもの。

中小企業再生支援協議会と特例リスケ

当制度の受付窓口である「中小企業再生支援協議会」が専門家と共に、計画の策定や金融機関との調整を行なってくれて、必要とあらば金融機関に新規融資もお願いする事ができます。
話はそれますが、この中小企業再生支援協議会(以下、協議会)という組織、経営にお困りの方であればすぐにでも相談に行くべきところです。
特に借入が大きく返済負担が重い、資金繰りが厳しいなど、財務的に問題を抱える企業を中心に手厚く相談に乘ってくれます。
全国47都道府県に設置されており、中小企業診断士以外にも会計士や弁護士とも連携しています。
困ったことがあればまずは借入を行っているメインバンクに声をかけて相談を持ち込みましょう。
協議会の機能は大きく2つ。「金融調整」と「計画策定支援」です。
金融調整に関しては、金融機関と企業の間に立ち、中立的な立場で調整を行ってくれます。
例えば、元本返済を止めたい一方で新たな借入が必要な時なども、金融機関との間に立ち情報整理や利害調整なども行なってくれます。
その土台となる計画策定支援も会計士などの外部専門家と組んで支援しており、協議会のスキームを活用すればその支援を行う費用に補助金が出ます。
これまではその計画とは、経営改善施策の立案と実施、その実現可能性の検証を伴う「従来型」と呼ばれる計画のことだったのですが、それらを必ずしも伴わない「特例リスケ計画」の策定によるリスケジュールも可能となりました。
しかしこれは裏を返せば、経営の改善は行わず単なる延命をしているだけに過ぎない、という事です。
この制度を使って延命をしている間に、経営の抜本的な改革を行わなければ、いずれは事業が無くなってしまいます。それが制度開始から1年経過し徐々に明らかになってきました。
かく言う私も、2020年の前半には「1年もあればこの騒動はおさまるだろう」と思っていました。
しかし実際は世の中の何もかもが変わってしまい、それに合わせて事業や経営も抜本的に変えざる得ない状況になってしまいました。

特例リスケの進め方

特例リスケの進め方は以下の通りです。

  1. 最近1ヶ月の売上高が前3年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少しているか、もしくは過去6ヶ月(最近1ヶ月含む。)の平均売上高が前3年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少しているか、を確認。
  2. メインバンクに声をかけ特例リスケを使いたい旨を伝える。それが困難であれば協議会に相談。
  3. 協議会が可能と判断した場合は対応が開始し、協議会から金融機関へ一旦3か月程度の返済猶予の要請がなされる。
  4. 協議会の支援のもと、資金繰り計画、アクションプラン、ビジネスモデル図などを専門家と共に作成する。費用は一部協議会が補助。
  5. 計画の期間は原則1年間。必要であれば他の制度活用も検討される。
  6. 作成した計画を基に金融機関に対しリスケジュールの合意を得られるよう協議会が調整を行う。

かなりざっくりですが、上記のような流れで、相談から合意までの期間は3か月程度が想定されています。
「特例リスケ」という名前からもなんとなくイメージできますが、計画を策定して実現可能性の高い「再生」を目指すというよりも、迅速な「止血」を目的としているのがこの制度の特徴。
私はまさにこれが特例リスケの強みでもあり弱点ではないかとも考えています。

「腹落ち感」のある計画

日々経営者の事業計画策定のお手伝いしていて思う事なのですが、どれだけ素晴らしい計画も実行されなければ意味がありません。
最近ようやくその答えが見えてきたのですが、経営者の計画に対する「腹落ち感」はどうやって生まれるのだろう、という疑問です。
ひとつめの答えは、経営者自身が率先して作った計画であるという事です。
一時期「早期経営改善計画」という制度の計画策定についてある程度の数をこなしていたのですが、こちらがパワーをかけて計画策定にかかわればかかわる程、後にその計画は実行されないという事がわかりました。
一方こちらは何もせず、経営者に質問をするだけで経営者に頭を使ってもらい、経営者に手を動かしてもらってできた計画は必ず実行されるのです。
後者はコンサルタントとしては「何もしていない」ように見えますから気まずいように思うのですが、明らかに計画策定に対する満足度やその後のパフォーマンスが高いのです。
もうひとつの答えは経営者の「WANT(したい)」であるという事です。
計画策定というのは専門家がからむとどうしても上から降ってきた「MUST(しなければならない)」な計画になりがちです。
人は「WANT」なら行動できる事も「MUST」になると途端に行動できず、無理やり動いてもミスを繰り返してしまいます。
難易度は高いですが、いかに経営者の「WANT」を引き出し計画に盛り込むかがその後のパフォーマンスを大きく左右する事になります。
協議会では、特例リスケで元本返済を猶予してもらっている1年の間に「経営改善を伴う」本格的な事業計画(前述の「従来型」計画)の策定に着手することも支援しており、計画策定費用について補助金が使えるケースもあります。
専門家の手を借りて半年程度の時間をかけ、次にどう動けば事業が復活するかを考え、「腹落ち感」のある計画を練るので、ある意味特例リスケによる「時間稼ぎ」はこのためにあるのかも知れません。
コロナ禍によって失われたものが多くありますが、一方で市場では様々な変化が起き、事業環境としてはチャンスと捉える事もできます。
国の制度をうまく使って、単なる延命ではなく、機に乗じてビジネスモデルの刷新に取り組んでいきましょう。
(この稿おわり)