事業再構築補助金の落とし穴
2021年5月12日当初2021年4月30日に締め切りだった事業再構築補助金、想定より応募者数が多く、締め切り当日にサーバーがダウン、その後5月7日に締め切りが延長されました。
まず、事業再構築補助金の簡単な概要を振り返ってみましょう。
巨大な予算規模
公募開始前、話題となっていたのはその予算規模でした。400万件以上、5,5兆円以上が給付され、不正受給の逮捕者まで出た「持続化給付金」の後続制度という位置づけもあり、事業再構築補助金の予算規模は1兆1485億円と発表されました。規模がイメージし難いですが、同時に発表された人気補助金「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」「IT補助金」などの予算総額が2300億円と考えると、その規模の大きさがわかります。
事業再構築補助金で生産性向上の事業計画を出しても、採択はされない
ただし、制度の目的が違うという点から、一概に比較できないとも言えます。簡単に言うと、ものづくり補助金などの目的は「生産性向上」であり、事業再構築補助金の目的は「ビジネスモデルの転換」です。新型コロナの影響で旧来型のビジネスモデルでは生き残れない状態を転換するのが事業再構築補助金なのです。つまり、事業再構築補助金で生産性向上の事業計画を出しても、採択はされない、と考えられます。当たり前の事を言っていると言われそうですが、実は持ち込まれる相談の半分以上はコロナ後の生き残りをかけたビジネスモデルの転換からは程遠い、設備の入れ替えやラインの増設の話などです。そしてそのような「公募開始から始まる思い付きに近い相談」は、突貫工事で計画がつくられ、締め切り直前に未成熟なまま出される(私は経験からこれがサーバーダウンの原因と考えています)のです。
補助金が出なくてもやる計画
では採択される計画で、その上計画が実行され利益も出る計画とはどのような計画でしょう。それは一言で表すと、そもそも「補助金が出なくてもやる計画」です。思い切った表現ですが、8割程度はこのような計画が採択され、かつ上手くいっている印象があります。つまり「補助金が出るならやる」という計画の大半は採択率も低く、採択されても結果うまくいかない事が多い、という事です。さらに今回に関しては「生産性向上」という数値化し易いシンプルな計画ではなく「ビジネスモデルの転換」という難易度の高い計画が必要なのです。
何故、事業再構築補助金による「ビジネスモデルの転換」が求められているのか?
ところで企業は何故、事業再構築補助金による「ビジネスモデルの転換」が国から求められているのでしょうか。背景には国の「成長戦略会議」において「コロナ後の需要はコロナ前に戻らない」ので「企業をそのまま守るよりは変革をして成長する企業を中心に応援するべき」と提言された事に始まります。では、変革をすれば成長する、という前提はどこからくるものでしょうか。
以下は2020年の中小企業白書に書かれた「事業領域・分野の見直し」における「新事業進出の業績への影響」のグラフです。 この調査においては事業を「領域」と「分野」に分け、それぞれ新たな活動を行った企業の業績への影響を見ています。結論はあまり変わりませんので「領域」と「分野」の意味はそれぞれ、「領域」=やる事、「分野」=売る相手、と簡単に考えてください。
まず、2013年以降に新事業領域進出を行った企業に調査を行い、販売数量や販売単価にもたらした影響を調査したものです。一般的に販売数量と販売単価の関係は、トレードオフの関係にあるといわれますが、新事業領域へ進出した企業の39.8%は結果的に販売した数量と単価共に上昇させたという好結果が出ています。
続いては新事業分野においても同じように好結果が出ています。
この調査では、企業の営業利益、労働生産性においても、新事業進出を行えば概ね良い影響をもたらすと結論づけられています。この年の調査に限らず、2015年の白書においても、継続的なイノベーションが企業業績に好影響をもたらす、2017年でも研究開発費と企業業績は一定の相関がある、などの「新たな取り組みは業績に好影響を与える」調査結果が出ています。
ただし、ここでは割愛しましたが、新事業進出を行った企業の一部には営業利益を低下させた企業も少なからず存在するという事実もあり、その点には注意が必要です。
そこで必要なのが「コロナ後の市場を見据えた事業計画」という点が今回お伝えしたかった事です。
ライブ配信やってます
あまりに宝くじ的に補助金申請を検討されておられる方が多いので、事業再構築補助金でも計画策定の補助を行っている認定支援機関と定期的に啓蒙のためにライブ配信を行っています。リアルタイムに質問を受け付けているので、ぜひ気軽にご参加ください。
http://facebook.com/107461070754552/
(この稿おわり)
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大阪の中小企業診断士。
㈱リクルートでSUUMO立上げ後2010年に退職・独立。工務店を中心に経営支援を開始し、2011年に中小企業診断士資格取得。
建設業や製造業など「創る」企業が「売る」機能を身につける支援を得意とする。
事業支援の仕事が中心だったがコロナ後に当サイト管理者のHill Andon氏から誘われ金融支援の世界に足を踏み入れ現在に至る。