ビジネスエッセイ~不良債権バブルの再来はあるのか?~
2021年3月21日少し前の日経新聞に、投資ファンドが金融機関から不良債権を買い取るファンドを設立するとの記事が出ていました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGC1349J0T10C21A1000000
最近このテの報道をしばしば目にします。それらの記事にも書かれていますが、同種のファンドは2000年代初頭に隆盛を極め、その後下火になっていたものです。
2002年、小泉総理&竹中金融担当相のコンビによって「金融再生プログラム」が作成され、金融機関の不良債権処理の流れが政府によって加速/強化されました。
当時、経済が停滞する中、地価や株価の下落が止まらず、金融機関の融資先である企業業績が悪化し、担保価値が毀損、返済の滞った融資が「不良債権化」しました。
その不良債権を金融機関は融資額を大幅に割り引いて(1億円の貸金「債権」を例えば1000万円で)ファンドに売却し、ファンドは「債務者企業」と交渉して債務者がどうにか払える金額で(1500万円で)「手打ち」します。
ファンドにとっては150%の投資リターン。
債務者企業にとっては85%の「借金棒引き」。金融機関にとっては90%の(事実上の)「貸倒損失」。
という構図です。
大損するのは金融機関なワケで、彼らとしてもできればやりたくない。
しかしそれを政府主導で推進し、日本経済の「膿み出し」をやろうとしたのが「金融再生プログラム」です。
当時筆者は、投資チームの一員として「バルクセール」で売りに出される金融機関の不良債権をオークションで入札する「不良債権投資」に携わり、後に中小企業の事業再生という世界に足を踏み入れるキッカケとなりました。
やがて「不良債権投資は儲かる!」ということで、先行した外資系(ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーetc.)に続いて日系ファンドも続々と参入。
不良債権市場は活況を呈します。入札価格は次第に高騰し、債務者企業の負担可能額を上回るケースも出始めます。
こうなるとファンドの投資利回りは低下、損失を出すファンドも現れます。
「不良債権バブル」の到来と崩壊の始まりです。
そしてバブル崩壊を決定づけたのが2009年の金融円滑化法(モラトリアム法)の成立。
亀井静香金融担当相のもと、日本の金融行政は180度方向転換し、金融機関は不良債権を売却しなくなりました。
この業界のメインプレイヤーだったファンドや「サービサー」(債権回収会社)の多くが撤退/廃業し、不良債権ビジネスは「構造不況業種」となりました。
その後も景気の先行不安がささやかれる度に、古くからの知人から「そろそろ出番ですかね?」と訊ねられましたが、不良債権バブルの再来はありません。
そして今回のコロナ禍。
上述したような報道を目にするようになりました。
今度こそバブル再来?おそらく「否」でしょう。
不良債権の大口の売り手だったメガバンクは、中小企業向け金融から軸足を抜いたこともあって、不良債権比率を低位に抑え込むことに成功しています。
一方、もう一つの売り手だった地域金融機関(地銀/信金など)は、金融円滑化法以降、中小企業の衰退と共に潜在的な不良債権を抱え込んでいることが予想されますが、彼等のこれまでの行動パターンから類推するに、政治的な「外圧」がかからない限り、自ら不良債権処理(大掛かりな債権売却)に踏みだすことは少ないように思われます。
今後かかり得る「外圧」としては菅総理が推進しようとしている「地銀再編」が考えられ、前述のファンドもそのあたりを見越しての設立なのでしょうが、日本中の地銀全てが再編の対象となるわけでもなく、かつて起こったような全国規模の地域金融機関が不良債権売却インセンティブを持つ、といった趨勢にはならないと考えられます。
適切な規模での不良債権処理を継続的に行っていくことは、金融機関の財務の健全化につながり、プレイヤー(=中小企業)の優勝劣敗による経済の新陳代謝の促進をもたらすことになるのですが、金融円滑化法以降はそうした流れが阻害されたままとなっています。
「バブル」に至る必要はありませんが、不良債権投資ビジネスが多少は息を吹き返した方が、日本経済全体にとっては本当は良いことなのかもしれません。
(この稿おわり)
こんにちはHill Andonです。日本語で書くと昼行燈と申します。
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