病気治療(がん)と仕事の両立~第2回~
2022年4月3日皆さまこんにちは!
社員の病気治療(がん)と仕事の両立について企業はどう関わっていくべきか?を考えるシリーズ。
今回は当事者の方のお話をもとに治療と仕事の両立を実際に行う人たちが企業そして職場にどんなことを求めているかについて考えてみたいと思います。
先ずは前回に続いて東京都が平成31年に行った調査(1)をもとに状況を見て見ましょう
1)職場への相談・報告
がんと分かった際に職場への相談・報告をした人は88.2%
そのうち
- 所属長や上司に相談:94.1%、
- 同僚に相談:49.3%
ほとんどの人が、自分が“がん”になったと分かった後、まず上司に相談しています。
一方でがんと分かった時に“職場が病気について相談しやすい雰囲気”があったと考えている人は 69.6%で、残りの約3割は相談しにくいと感じたようです。
多くの人は“がん”と知ったショックで混乱状態にあり、治療に対する不十分な理解から離職に至ってしまうケースも少なくありません。
日頃より職場で相談しやすい雰囲気を作っておくことが大事です。
2)治療法別の治療と仕事の両立に関する見解
がん治療を受けたことがある人で、仕事をしながら治療を受けることは、
半日休暇や時間単位を含む有給休暇を利用すれば可能
と答えた割合は
- 放射線治療45.2%
- 薬物療法47.3%
半分近い人が退職しなくても必要な休暇を取れれば治療と仕事は両立できるという実感をもっています。
3)治療と仕事の両立支援に対する職場や上司への意見・要望
調査では以下のような意見・要望が紹介されています。
① 思い込みで反応せず、正確な知識と情報をもとに理解してほしい
「放射線治療や薬物療法の影響で体がぐったりしたり、顔色がわるくなったりすることがありますが、それを見ている職場の人々はがんで具合がわるいと考えてしまうケースが少なくありません」。
こういった周りの見る目が治療をしながら仕事をする人にとっては働きにくさを感じさせることにつながります。
今回の連載にあたってお話をして頂いた方からも以下のような意見が聞かれました。
「“がん”と聞いてとても心配してくれるのはありがたいが、入院すると話しただけで“死なないでと言って泣く人もいる”。がん=死ぬ”という対応をされるとどのように接してよいか困った。」(乳がん、ステージ1、女性)。
がんにもいろいろなステージがあり、それにより治療方法も、薬や治療の影響も人それぞれに異なるため、職場も正確な情報をもって対応することが大事です。
② 特別扱いしないでほしい
「病気になったから仕事ができないんじゃないかとか、かわいそうで仕事が頼めないなど偏見的なことを言われるのが一番傷つく。本人は仕事に対してやる気もあるし、責任もモチベーションの 1 つ。薬を飲んだり、治療は続くが皆の理解と少しの協力があれば治療と仕事は両立できると思うし、そういう社会であってほしいと切に願います。」
どのような配慮や協力をすれば働けるのかを本人とよく話したうえで、特別扱いせず仕事を任せていくことが本人にとって安心して働くために大事になります。
今回取材に応じてくださった方の中でも、
「数々の温かい励ましの言葉もさることながら、病と闘っている姿を見守ってくれた気遣いが有難かった」(上行結腸癌、ステージ3、男性)
「退院して復職したばかりの頃はリモートワークをさせてもらったことでスムーズに復職できた」(中咽頭がん、ステージ1男性)
という声が聞かれました。
このほか
「上司が自分や自分のチームでサポートできることはないかと聞いてくれ、社内のキーのメンバーに“彼女のプライベートなことなのでプライバシーを尊重するように”と言ってくれてありがたかった」(前述乳がん、ステージ1、女性)
という意見もありました。
当事者へのサポートに加えプライバシーに配慮することも必要です。
③ ライフイベントと両立に合わせた休暇制度を用意してほしい
子育て世代は子供の学校の行事のために休む必要もあります。
また介護が必要な人はそのための休暇も必要になります。
こういったライフイベントに合わせた制度もあるとより両立が可能になるかもしれません。
4)治療と仕事の両立支援に必要な知識
それでは会社や一緒に働く人はどのような知識を理解する必要があるのでしょうか。厚生労働省の資料(2)によると主に以下の点が挙げられています。
① がん治療のプロセスと仕事への影響
告知・治療方針の選択→職場への相談・仕事の調整→治療開始(必要に応じて休職)→外来診療への移行→復職→治療継続
それぞれの治療プロセスによって仕事への影響が異なるため、それに合わせた配慮や協力が必要です。
② 治療の種類
- 手術
- 放射線治療
- 薬物療法(化学療法)
治療の種類によっても治療の期間、そして身体への影響も異なってきます。
③ がん患者が直面する痛みの理解
- 身体的苦痛
- 精神的苦痛
- 魂の苦痛
- 社会的苦痛
がん患者は「身体的な苦痛」のほかに、“回復への不安やその不安をわかってもらえない”と考えてしまう「精神的苦痛」、“がんになったことで自分の人生自体がどうなっていくのか”について悩む「魂の苦痛」、そして“周りに迷惑をかけてはいけない”、“治療を進める中で職場の人間が変わってしまうのではないか”と苦しむ「社会的な苦痛」に直面すると言われています。
こういった気持ちを理解することも大事です。
これら必要な知識をしっかり理解したうえで治療と仕事の両立を進める社員に寄り添うことが求められています。
次回は医療側から見た両立支援について考えてみたいと思います。お楽しみに。
※参考
- 東京都がん医療等に係る実態調査報告書(平成31年3月)
- 厚生労働省 「治療と職業生活の両立支援」 労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業より
- 「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」令和年厚労省
1962年生まれ、中央大学商学部卒業
国家資格キャリアコンサルタント
なかさん本舗 代表
オリックス株式会社において約20年間、中華圏の業務に従事、内14年を駐在員として中国・台湾で過ごす。
中国では合弁企業の立ち上げ・マネジメントに加え、当時では珍しい会社の清算までを経験、現地に於いてたった一人で中国側と清算交渉を行い、出資金100%を回収した。
その後、台湾に異動、社長として現地法人3社のマネジメントに携わる。
現地中小企業向けリース事業の他、不良債権投資事業にて実績を上げる。
2018年に国家資格キャリアコンサルタントを取得。
“歌って、踊れて、中国語ができるキャリアコンサルタント”として留学生支援活動を行っている。