流しの診断士;上野孝義が聞いた経営者のつぶやき(悩み、過ち、夢、そして希望)-②

流しの診断士;上野孝義が聞いた経営者のつぶやき(悩み、過ち、夢、そして希望)-②

2022年2月13日 オフ 投稿者: 上野孝義

(前回はこちらから)

うちの社員は本当に・・・・。

筆者は最近エグゼクティブコーチングを学ぶべく、あるコーチのもとで学びを始めました。
先日、その学びの場にてコーチから
「経営者と社員とのギャップ」についての説明を
受けました。筆者自身まさに体験したことであり大変納得した説明であったことが印象的です。
今回は筆者の実体験とそこから得た学び、教訓を紹介します。

中間管理職向けマーケティング研修

先輩コンサルタントが顧問を務める某食品メーカーB社の中間管理職向けマーケティング研修の引き合いを頂いた。
食品メーカーというと「スーパー等で販売される最終消費者向けの食品を作る」といったBtoCのイメージが強いものの、B社は主に食品原材料を加工、製造し食品メーカーに卸す、とのBtoBのビジネススタイルである。
社員数150名ほどの中堅規模ではあるが、業績は好調で業界では著名な企業である。

ある日の夕方、B社社長へのご挨拶ならびに研修の目的や期待を確認するために、先輩コンサルタントとともにB社を訪問した。
60歳前後の社長は、「場所を変えて話しましょう」といきなり近所の中華料理店に移動した。(さすが先輩コンサルタントはB社社長から信頼されている!)
個室に入り、名刺交換のあと簡単に自己紹介。
全国の食品スーパーマーケットのPOSデータを収集・分析し、食品メーカー、卸、小売り向けに各種提案するコンサル業務の経験があること。食品業界の業界紙主催のセミナーでの講演実績や中小企業診断士として幹部社員向けの教育、研修実績があること。等々をPRした。
先輩コンサルタントの推薦や筆者のPRも功を奏したのか、あるいはお酒の勢いも手伝ったのか、B社社長から「では上野さん、ぜひお願いします」との言葉を頂いた!!!

研修にむけて

B社社長からは、
「BtoB業態であるがゆえに消費者視点のマーケティング感覚が社員に欠如している。」
「営業マンよりも製造現場の中間管理職にマーケティング感覚を植え付けたい。」

とのリクエストを頂いた。
また、
「工場の会議室にて実施頂きたい。」
「工場長の希望もぜひ取り入れて頂きたい。」
とのことで話はトントン拍子にまとまった。
中華料理店での
「うちの社員は本当に私の考えや会社の方針を良く理解してくれているから
とのB社社長の言葉が大変印象に残った。

二週間後、工場を単独訪問。
事前に研修対象者である管理職の方ともお会いしたい旨を伝えていた。
工場長は大変穏やかな方で社員の信頼を集めそうな人物である。
工場長からは
「課長は4人いて、それぞれ2、3人の係長を従えている。」
「今日は仕事の都合上課長2名とそれぞれ部下である係長2名ずつの計6名と面談頂く。」
「研修会場として予定している会議室に集めます。」
との説明を受けた。
工場長の
「うちの社員は本当に個性的なのが多い。でもチームワークは良いから」
との言葉が妙に心に引っかかった。

工場長が自席より内線電話で課長2名それぞれに「メンバーを連れて会議室に来るように」との指示をされた。
ロの字型に長テーブルが配置された会議室のひな壇席で工場長と筆者が並んで座って待つことに。
ちなみに一面に6名座れる形でテーブルが配置され、合計24名が着席できるテーブル配置。
しばらくしてまず2名入室され、その2人が離れて着席した。
続いて1名が先の2名と離れる形で着席。そのあと3名がパラパラと入室され、空いたスペースを探す形で着席した。
ばらばらに入ってきた6名が3面18名が座れる配置にばらばらに座ったのである。
何かおかしな雰囲気・・・。

全員揃ったところで研修の狙い、カリキュラムの構成等々を説明。
予定していた説明が終了した後で、研修に対する要望等を確認したい、と発言を促した。
各人から具体的な質問が出され、回答して面談を締めくくった。
カリキュラム等はB社社長や工場長にも事前承諾頂いたので研修自身はこれで何も問題なく進められる。
ただこの会議室での出来事が妙に引っかかった筆者であった。

研修スタート

翌週土曜日。
研修をスタートさせると、工場の管理職12名、営業管理職3名はみな熱心に受講され、こちらも張り合いがあった。
開始1.5時間後に最初の休憩に。
スモーカーである筆者は喫煙場所に行くと受講者5名が会話もなくたばこを吸っていた。
筆者が来たことがわかると皆軽く会釈をして、スペースを空けてくれる配慮があった。
みんな素直でいい人だけど、なんか違和感あり・・・。

初日が滞りなく終了し、結果をB社社長に報告に伺った。
そこで筆者は
「工場長はチームワークが良い、とおっしゃっていました。ただ失礼ながらそのようには思えません。」
「なぜならば・・・」
との形で6名の方との面談シーン、喫煙場所のシーンを説明。
B社社長は
「それは気のせいですよ。チームワークは皆良いはずだ。」
「課長を中心に各課とも役割を認識し、きちんと成果を挙げている。」
「チームワークが良くて会社目標に向かっているからでしょう。」

と語りだした。
「次の研修の際は私も行きますよ。」
とB社社長が最後に語った。

研修2日目

翌週土曜日研修2日目がスタート。
朝から社長が会議室の奥に一人座り、筆者自身、また受講者にも緊張感が漂っていた。
先週利用した資料には各受講生とも数多くの書き込みや線が引かれいることが講師席から確認することができた。
筆者は直前まで迷っていたが、ある実験をすることを決意した。
「少々予定外ですが今日の午前中はグループに分かれてディスカッションいただきます。」
と宣言して、受講生をランダムに分け、5名ずつ3つのグループを作り、グループ単位で席を配置した。
「ディスカッションテーマは『今年度の会社目標達成に向けマーケティングの視点にて会社として何をすべきか』です。」
補足説明をしてグループ毎にリーダーを指名。
「ではリーダーを中心にディスカッションを開始してください。」
「会社目標をまず確認しましょう。」
「時間は30分で、その後リーダーの方に発表いただきます。」と筆者より発声。

ところが・・・。
筆者の予想をはるかに超えてディスカッションは全く進まなかった。
B社社長も進まぬディスカッションに苛立ちのオーラ。
「会社目標覚えていますか?」と小声で聞いても、各グループとも曖昧な回答もしくは沈黙状態。
目標をうろ覚え状態でパニック気味のリーダーに手を貸す受講生もいない(というかその余裕も無い)。
誰もが今年度の会社目標を正しく理解していない(記憶していない)。
社長が近くにいることで相当緊張している・・・。
各受講生とも意識は高いものの、実はそもそも話し合い等の機会が少なく、日々のコミュニケーションがあまり円滑になされていないようであった。

開始10分経過してもほとんどディスカッションが進まない光景を見て呆然としている社長。
筆者は
「テーマがいきなり大きかったようです。初日の研修を踏まえ、課の目標を達成するためにマーケティングを視点にどんな活動が必要なのか?を話し合ってください。」
「課の目標達成との視点で考え、ディスカッションしてみましょう。」
と方向を修正。
身近な、そして普段から考えている(自分たちの)課の目標達成、との視点にしたところ、リーダーを中心に徐々にディスカッションが進み始めた。
その後の発表も各グループ各人の想いが伝わる良い発表であった。
B社社長は少々安心した様子だった。
少々荒っぽいやり方であったが、筆者の目論見もどうにか成功したのである。

研修は成功しB社社長からも感謝された。
「私は勘違いしていた。まずは私と社員のコミュニケーションが足りない。
「今後何が必要かがわかりました。」
「これが私にとっての最大の成果です。」
とのお言葉を頂いたのであった。

学びと教訓

少々極端な、また特殊なケースかもしれないが、本ケースで得た教訓、学びは

  • 個が強すぎると「孤」を招きかねない。それがコミュニケーションにも影響を及ぼすが、個が優秀であればある働きかけによりお互いを理解し「孤」がグループに変化する(ケースがある)。
  • 業績が良い企業には当然理由がある。製品力(サービス力)や販売力等々要因は様々である。ただ々個々の社員が優秀なこと、ひたむきことは大きな要因である。
  • 企業理念や会社目標はどんな企業にもある。しかし経営者が思うほどそれは浸透していない(ケースがある)。また経営者の想い、考えも同様である(ケースがある)。
  • 中間管理職は自身が統括する課・係の目標達成で頭が一杯である。それはそれで正解ではあるのだが、会社全体の目標を踏まえた上での課・係の目標であることを認識する必要がある。また経営者はそのような教育や働きかけをする必要がある。
  • 経営者と社員には距離がある。ある意味当然であるが、多くはコミュニケーションの距離であり、距離があるからこそお互いの思いが伝わらないし通じ合わない。
  • 経営者と社員との距離、あるいは社員間の距離を縮めるために管理者、さらには経営幹部は何をするのか? 常に考えて実践し、より良い環境、雰囲気を作る必要がある。

この距離を縮めるために何をすべきか?
より良い環境、雰囲気を作るためにコンサルタントとして、コーチとして経営者に何を与えていくのか? それはその後の筆者にとっても大きなテーマとなったのです。

後日談・・・。
なんと先輩コンサルタントはB社にてコミュニケーション改革(いわゆるチームビルディング)の研修を実施することになったのである。
はぁ~(筆者のため息)

(次回に続く)