流しの診断士;上野孝義が聞いた経営者のつぶやき(悩み、過ち、夢、そして希望)-①

流しの診断士;上野孝義が聞いた経営者のつぶやき(悩み、過ち、夢、そして希望)-①

2022年1月2日 オフ 投稿者: 上野孝義

あけましておめでとうございます。
ユニカイブ、今年もよろしくお願いいたします。

さて新年最初の記事は初登場の寄稿者にお願いします。
中小企業診断士として、ビジネスコーチとして幅広い分野で活動される上野孝義さん。
長いキャリアの中で出会った数多くの経営者と共に進んだ二人三脚の道のりの中から、思い出深いシーンを再現していただきました。

常に動いていたい

 筆者は幼少の頃より「町の床屋」に通っています。昔も今も「美容室」やおしゃれな「カットサロン」は苦手であり行ったことがありません。かなり前の話になりますが行きつけの「町の床屋」のつぶやき(悩み、ぼやき)を聞いたので、その内容と筆者からのアドバイス、その後の顛末を紹介します。

この街には結婚してから在住。途中転勤もあり、4年ほどこの街を離れたが、元の職場に復帰した際にも再びこの街を選んだ。
住みだした当初より何件か街の床屋を探索したが、結局一番近いところを行きつけとした。
店主の丁寧かつ早い仕上げが大変気に入ったのである。
そこの店主は筆者より5歳年上。開業当初は店主以外に店員2名(若手男女)を採用し、椅子は3台で待合席は3人ほどがかけられるソファーが一式という、どこにでもありそうな「街の床屋」である。
店主は肥満体形で下膨れ系フェイスという愛嬌のある人、性格は陽気だが来店客の様子を見ながら話かける等の配慮があった。また二人の若手店員はまじめでひたすら来店客の「美」や「毛量」の創出(?)を演出していた。
妻の話によると平日の日中もそこそこお客がいる様子。また土日は常に満員であり、いわゆる繁盛店であった。

ところが約2年後に男子店員が退職、更にその半年後に女子店員も退職。以降は店主が一人で店を切り盛りしていた。
店主に事情を聞いたところ、最初からそう言う約束だった、先輩に頼まれて後継ぎを修行のために預かっていた、とのことである。
二人についていたお客さんは?と聞いたところ、店主は悔しそうに「一緒に連れて行きましたよ」とのことである。
売上厳しいのでは?との問いかけには、「そりゃあ厳しいけど家賃が払えて、ぜいたくはできなくても生活ができれば。」「ここの家賃も下げてくれたし。」との答え。更には「人を雇うのは難しいですよ。一人でやるほうが気楽です。嫁さんも働いているし、当面はこのままで」とちょっと寂しげに語っていた。
またその頃に地元の理容業組合も抜けたとのことであつた。理由は、「加入は絶対ではなく、またしがらみも切りたい、組合に入っていると料金も営業時間や店休日も全部決められて自由が無い。」とのものであった。

さてそろそろ髪を切る時期に来たので、その店を訪問。先客がほぼ終わりかけのところにうまく入店でき、待ち時間なしでカットが始まった。
その後筆者が髪を切り終えるまでに3名ほどが店内に入ろうとするが、既に先客(筆者)がいるのがわかると、ドアも開けずに去っていった。
「待ちたくないからほかのところに行くんですよ。常連さんだったら待ってくれるけど、うちみたいなところは近所にもあるから、そっちに行くのですよ。」「そうそう、暇な時と今みたいに続けてくる時とバラバラなんです。常に動いていたいんですけど。」とのつぶやきが印象的であった。

約一か月後、また髪を切る時期になり訪問した。妻に聞くと最近の同店は低学年の子供がよく来ているみたい、とのことであった。
その話を店主にすると「漫画をたくさん置くようにしました。」「でもね、土日にも子供がいっぱい来ちゃって、土日は大人で稼ぎたいのですけど。」「相変わらずさっぱり来ない時もあるし。」
実際筆者がカットしている間に低学年の兄弟らしい2人の子供が来店しソファーに座って漫画を読んでいた。
店主とのその後の話でわかったことは、店主は店舗周辺や来店傾向を自分なりに分析していた。

具体的には、

  • 店舗周辺には若い子育てファミリー世帯、熟年や高齢者夫婦が多い(一人暮らしは少ない)。
  • 年金支給の翌日は高齢者が多数来店する。
  • 中には遠方からきてくれるお客もいる。
  • 塾に通う小学生が多く、小学生の来店は下校時間直後に集中。また漫画を置いたら土日も増えた。
  • 来店客は店主より5歳くらい年下まで。あとは小学生4、5年生まで。ようは若い男性や中高校生、大学生は来ない(なるほど、子供は別として来店客は自分と理容技術者の年齢を無意識のうちに比較している)。
  • 小学生も女の子は来ない(店主の風体からしてそれは理解できる!)
  • 小学生100円値引きキャンペーンを実施したところ、その期間は盛況だった。100円でも親は敏感。

以上を踏まえ、店主と作戦会議を実施した。(コスト計算等もあったもののここでは施策のみを記載します)

その施策とは、

  • 店休日を火曜日とする。(周辺の組合加盟店は月曜休み)→土日に来店できなかった人を月曜日に吸収する。
  • 土日は完全予約制(電話予約)にして、店外からも予約状況がわかるホワイトボードを設置する。当然空いている時間帯のフリー来店客は受付ける。
  • 平日の15時まではシルバー割引を適用、また15:00-17:30はキッズタイム割引を適用。→平日夜と土日に成人客を集中させる施策。
  • 以上施策を (当時)ワープロにて作成し、店外に掲示する。

一か月後の土曜日に予約訪問するとも予約ボードはほぼ隙間なく埋まっていた。
また「平日の時間帯も、隙間時間は多少できるけれども、ほぼ一日はさみを動かしています、組合からの嫌がらせやクレームとかも一切ないです。」と嬉しそうに語っていた。
割引によるロスは当然あるものの、稼働率と売上も大幅に向上し、かつ来店客からも好評とのことであった。

当時はまだ中小企業診断士ではなく、店主と一緒に考えたアイデアをよく検討し、店主がそれを実践しただけのことである。
このときに感じたことをその後の経験も踏まえて述べると、

  • どんな店舗も売上、更には製品・サービスのことで頭が一杯。不調な時は不安になり思考が停止する。
  • 周辺のこと、あるいは競合のことは意外とじっくりと観察している。但し自店がなすべきことや次の一歩がわからない。また踏み出せない。
  • ヒント、あるいはきっかけがあれば自分の想いに向かって行動する。
  • 来店客が少なくとも、客が来るからには必ず良い点、強みがある。
  • オペレーションを少々変えるだけでも、結果は大きく異なってくる。行動を変えれば結果も変わる。

ということ。

今回は身近なサービス業(店舗)をテーマに書いてみました。

店主、あるいは経営者は大変前向きに事業などを進めていこうとしています。そんな方々がこのサイトを見て、あれこれ考えていらっしゃることと思います。

さあ、今年も一歩踏み出していきましょう。

(次回に続く)